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第1話

皆様こんにちは。くまくま、だ。

 花見シーズンもあっという間に終わった。そして、ゴールデンウィークも、ヌシさんはお上のお達しを忠実に守り、出かけることなく過ごした。(いや、本当に見事に一歩もでなかった。ある意味あっぱれだ)だから、僕の「お出かけに連れていってもらう計画」も台無しになった。ヌシさんが、『くまくま、いつの間にそんな計画を……』と少し白い目で僕を見る。いまの世の中の状況は分かっているよ? でも、僕がヌシさんのところにきて一年以上経つし、そろそろ外に行きたいよ。ヌイグルミの僕はウイルス感染しないもの。けど、ヌシさんたちはそうもいかない。だから落ち着くまではお出かけは我慢、我慢。そして来る日に備えて計画を練り直しだ。

『いや、くまくま。世の中が落ち着いても、ちょっと…』

 え、駄目なの? どうしてさ。去年のゴールデンウィークの旅行には、別のヌイグルミを連れていっていたじゃないか。嫌だとは言わせない。

『でも、サイズ的にちょっと…。くまくまのサイズだと、カバンに入らない。というより、くまくまサイズだと、小ぶりのスーツケースじゃないと入らない』

 それが理由!? なにも無理にカバンにいれなくても、ヌシさんが抱きかかえてくれれば!

『風呂敷でぐるぐる巻きにしてよければ……』

 ヌシさん、それは鬼畜だ。あまりにも鬼畜だ。もういい、頼まない。僕は一人で空想のお出かけをしてやるっ。空想なら出かける先は、場所は思いのまま。そして時代も思いのまま。しかもお金はかからない。じゃあ早速出かけよう。

 ここは名古屋にある熱田神宮。名古屋のみならず愛知県の初詣スポットだ。三種の神器の一つ、「草薙神剣」が祀られている。あの織田信長が、桶狭間の戦いの前に戦勝祈願をしたのもここだ。

 参道を歩いていると、後ろから誰かに抱き上げられた。僕と同じく参拝に来た人らしい。

「あら、くまさん。あなたも参拝に?」

 ええ、そうです。

「歩くの大変でしょう? もしよければ一緒に参拝しませんか?」

 僕はその言葉に甘えることにした。実際、大変だったから。

「でも、どうして一人で? 連れの方はいないの?」

 僕のヌシ、僕を連れて歩くのが恥ずかしいって。

「そうなの? とってもキュートで、私なら連れて歩きたいけど」

 そうでしょう? なのに、と続けようとしたら手水所についた。僕は濡れ厳禁なので、洗う真似だけをする。神前に進み、手を合わせた。お願いごとは………。当然内緒だ。

 参拝後、おみくじを引いた。結果は「中吉」。うん、悪くない…じゃない、よかった。これは持って帰って、おみくじ帳に綴じておこう。神様のありがたいお言葉が書いてあるんだからさ、読み返したいよね。

 再び参道を歩いていると、いいにおいが漂ってきた。きしめんのお店だ。僕は無意識のうちに鼻を動かしていたらしい。僕を抱き上げてくれた人が、一緒に食べようと誘ってくれた。しかも! 奢ってくれた。熱いきしめんを、フーフーしながら食べ、少しおしゃべりをし、僕たちは別れた。その人と僕の手には、お揃いのお守りがあった。だから、いつかきっとまた会える。そんな気がする。

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