第２話

皆様こんにちは。くまくま、だ。

　新型コロナウイルスによる県境を越えた移動自粛も解除された。さあ、ヌシさんにどこかに連れていってもらおう！　そう思っていたら、表情のないヌシさんにこう言われた。この梅雨時に出かけると湿気るから、やめておけって。……湿気るって、僕は煎餅じゃないぞ。湿気るわけ………、湿気るかな？　ヌシさんに乾燥剤でも貰って、首から下げておこうかな。いやでも、それは見栄えが良くないな。これは、あれだあれ。心の中で出かけよう。今日はどこに行こうか。

　目を開けると、そこは……………。あれ、ここはどこだ？　僕は、伊勢神宮に行きたくて、そう念じたはずなのに。参拝後は名物のお餅をお腹いっぱい食べようと思っていたのに。なぜだ、どうしてこうなった。どうして競馬場にいるんだ、僕は。しかも、どこの競馬場なのか分からない。そして、周囲や通り過ぎていく人たちの視線が、ものすごく痛い。一体なにが原因で、お出かけに失敗したんだ？　あ、もしかして、ひょっとして、いざ出発（はた目には瞑想にはいる）という時、ヌシさんが歌っていた鼻歌のせいか。思い当たるのはそれぐらいしかない。ちくし……、おっといけない、ヌイグルミが発していい言葉じゃない。冷静になろう、冷静に。そして、なるべく人目につかないところに移動しよう。

　でも、ヌシさんが歌っていたのが１番でよかった。１番だから、まだ競馬場で済んだんだと思う。これがもし２番だったら、どうなっていたんだろう？　……よくて養豚場に行く、悪いと………うわあ、考えたくない。うん、まだ１番でよかったと思うしかない。

　そして、さすがにここはヌイグルミには似つかわしくない場所なので、速攻で帰ることにしよう。

　よし、戻ってきたぞ。改めて当初の目的地にもう一度、って駄目だ。ヌシさんがまた何か歌っている。しかも、ものすごく微妙な替え歌を。こんなのを聞きながら出発したら、現実の世界や過去の世界でなく、ゲームとかアニメとか漫画とか小説とか、ファンタジーの世界に行ってしまいそうだな。何の予備知識もない世界に行ったら、いくら僕でも対処できない。…いや待てよ、意外と楽しめるかもしれない。今度、試してみるか。もし成功すれば、僕の「行きたい所リスト」を更に充実させることができる。よし、ヌシさん、どんどん歌ってくれて構わない。どんな曲でも、替え歌でも、どんと来い。