皆様こんにちは。くまくま、だ。
この間、夜桜を見に連れてってもらったんだ。いや、苦節ウン十年。やっと夢が叶った。
『なにが苦節ウン十年よ、くまくま。生まれてからまだ手の指の数、しかも片手の指の数で足りる年数しかたってないでしょ?』
言葉どおりに受け取るなよ。まったくもう。いちいち説明しなくても分かるだろ?
『・・・そんなに待たせたつもりないけど』
待ったよ。気持ちのうえでは、ものすごく待った。待ちくたびれた。
『・・・そう、ごめん』
まあ、いいさ。実は連れ出してもらったのは僕だけなんだ。何匹かいる仲間(つい最近まで、僕くらいの大きさのは僕一人だったんだけど、あっという間に増えたんだ。ついこの間も増えた)の中から僕だけが行けたんだ。ちょっとだけ優越感。
夜桜、とても綺麗だった。ライトアップもされていてさ、幻想的だった。夜のせいで少し寒かったから、来年はぜひ昼間の暖かい時に連れていって欲しい。そして花見団子とか買ってくれないかな。
「来年は僕が連れて行ってもらうから、くまくまさんは留守番をしていてください」
くましろうか。なら僕とくましろうを連れていってもらおう。
「何を言っている。来年は僕とくましろうで夜桜を見に行くんだ」
今度はくまくろうか。君が夜桜を見に行ったら、闇夜のカラス状態になって、はっきり言うとホラーだ。諦めなよ。
「「違います。今度の花見に連れて行ってもらうのは、私たち。桜の花には私たちこそがよく似合う。そう、富士の山と月見草のように」」
桜色ズか。いや、桜の花には僕の方が似合う。断言してもいい。
「「そんなの、くまくまさんの主観です。第三者に忖度なく判断してもらうべきです」」
わかった。じゃあ決着をつけようじゃないか。くましろう、くまくろう、桜色ズ、そして僕で勝負だ。
『盛り上がっているとこ悪いんだけどさ』
僕たちのやりとりを黙って聞いていたヌシさんが口を挟んできた。どうかした?
『ゆうゆうのこと忘れてない?』
そういや、ゆうゆうもいたね。じゃあ、ゆうゆうも勝負に加えよう。
「遠慮しておきます」
なぜさ。
「桜より海が見たいからです」
『いいね、海! 見にいこう!』
え、僕も見たい。連れてってよ。
『じゃあ、ゆうゆうと、後はこの子たちも連れていこう』
ヌシさんが抱き上げたのは、僕ではなく、くましろう達でもなく。
「シャチ!?」
2匹のシャチのヌイグルミだった。えっ、そのシャチ達はまだ新入りじゃないか。それなのに連れて行くのか?
「だって、海にはゆうゆうのミント色とシャチが良く似合うから」
いや、僕は海にも似合うぞ! 連れて行け!
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